The End of American Exceptionalism: Trump’s Reelection Will Redefine U.S. Power
(WAJ: トランプ2.0は果たしていかなる変化を世界にもたらすだろうか。真剣な議論が必要とされる。しかし、忘れてならないことは、アメリカという国を支配している実体は、軍、情報局、金融機関、富裕層ファミリー、軍産複合体企業群である。それらが時々の世界情勢、国内事情に従ってトップを決める。そしてその政治のトップ層は獲得した権力を行使して私腹を肥やす。直近のクリントン夫妻、バイデン父子、トランプ親子でさえそうである。ドレズナー教授はトランプ2.0が世界政治の中でも特異で例外的であったアメリカ政治権力の在り方を変える始まりになるのではないか、と指摘する。(バイデン大統領は退陣前にあわてて息子に恩赦を与えて無罪とした。))
ダニエル・W・ドレズナー (foreignaffairs.com)
2024年11月12日
ドナルド・トランプ氏について唯一議論の余地がないのは、彼が2期目を獲得した方法だ。世論調査では統計的に接戦が続き、選挙結果が出るまで長く時間がかかるのではないかという懸念があったにもかかわらず、トランプ氏は先週水曜日の早朝に勝者と宣言された。2016年とは異なり、彼は投票総数と選挙人団の投票の両方で勝利し、ほぼすべての人口統計で差を広げた。共和党は上院で53議席の強力な多数派を獲得し、下院でも支配権を維持する可能性が高い(訳注:最終的に下院でも多数を占め、いわゆる共和党はトリプルレッドを実現した)。世界の他の国々にとって、状況は明らかであるはずだ。トランプ氏の「アメリカを再び偉大に」(MAGA)運動は、今後4年間の米国の外交政策を決定することになる。
トランプ大統領の1期目をよく観察している人なら、彼の外交政策の好みや外交政策のプロセスについてよく知っているはずだ。しかし、トランプ大統領の1期目と2期目の外交政策には3つの大きな違いがある可能性がある。第1に、トランプ大統領は、2017 年よりも均質な国家安全保障チームを率いて就任するだろう。第2に、2025年の世界情勢は、2017年とはかなり異なっている。そして第3に、他国の関係者たちは、よりよくドナルド・トランプ氏を読み取ることになる。
トランプ氏は今回、より自信を持って世界政治を舵取りするだろう。彼の「アメリカ第一」ブランドに合わせて世界をへし曲げることで彼が今後幸運に恵まれるかどうかは、まったく別の問題だ。しかし確かなことは、アメリカ例外主義の時代は終わったということだ。トランプ政権下では、米国の外交政策は長年にわたる米国の理想を推進することをやめる。これに、腐敗した外交政策の急増が予想されることが加わり、米国は周りからありふれた大国と見られてしまう。
トランプ氏の外交政策の世界観は、政界入りして以来明確だった。同氏は、米国が創設したリベラルな国際秩序が、時間の経過とともに合衆国に対して不利なカード設定になってしまったと信じている。この不均衡を変えるために、トランプ氏は輸入や移民など国内へ向かう経済の流れを制限したいと考えている(ただし、トランプ氏は対内直接投資は好きだ)。彼は同盟国が自国の防衛のためにもっと多くの負担を負うことを望んでいる。そして、ロシアのウラジーミル・プーチン氏や北朝鮮の金正恩氏のような独裁者との協定を結ぶことができ、それによって世界的な問題の緊張が緩和され、米国が国内に集中できるようになると信じている。
トランプ大統領が世界政治で望むものを手に入れるために好む手段も同様に明らかだ。前大統領にして将来の大統領は、関係各国に圧力をかけるには経済制裁などの強制力の行使が必要だと強く信じている。また、同氏は「狂人理論」の信奉者で、他国に対して大規模な関税引き上げや「炎と怒り」をちらつかせて脅すことが今後必須だ。その根底には、そんな脅しがあれば、それがない場合よりも大きな譲歩を相手から引き出せるとの強い思いがある。しかし同時に、トランプ氏は外交政策について取引優先の考え方もよく用い、最初の任期中には経済的譲歩を確保するために異なる問題を関連付けるという姿勢も見せた。例えば中国に関して、トランプ大統領は、香港での取り締まり、新疆での弾圧、中国ハイテク企業ファーウェイ幹部の逮捕など他の問題で譲歩する姿勢を示し、二国間貿易協定の改善へとこぎつけた。
トランプ氏の1期目の外交政策実績は明らかに雑多だった。韓国自由貿易協定や北米自由貿易協定(米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)と改称)の再交渉取引を見てみると、彼の強制の試みは貧弱な成果しか生み出さなかった。金正恩氏との首脳会談も同様だ。しかし、これはトランプ大統領のホワイトハウスが本質的にかなり混沌としていたためだと主張する人もいるだろう。トランプ大統領が自身の政権と対立しているように見える時期は何度もあり、彼の外交政策顧問の主流派たち(ジム・マティス国防長官やH・R・マクマスター国家安全保障問題担当補佐官など)が「部屋の中の大人」と評されることにしばしば繋がった。その結果、多くの個人がかき回され外交の位置づけにおいて気まぐれが生じ、トランプ大統領の目的を達成する能力が低下した。
トランプ2.0はアメリカ例外主義の力を葬り去るだろう。
それはトランプ大統領の2期目にとって問題ではないはずだ。過去8年間にわたり、同氏は外交政策および国家安全保障チームに志を同じくする職員を配置するのに十分な信奉者を集めてきた。彼が政治的に任命した人たちからの抵抗に遭う可能性ははるかに低い。トランプ大統領の政策に対するその他のチェックも大幅に弱まるだろう。政府の立法府と司法府は現在、2017年に比べてMAGAに好意的となっている。トランプ大統領はこれまで何度も、自身の政策に反対する専門家を軍や官僚機構から粛清するつもりであることを示唆しており、スケジュールFという措置を使用する可能性が高い。公務員職を政治枠として再分類し、強制的に排除することだ。今後数年間、米国は外交政策についてひとつの声で発言することになるが、その声はトランプ氏のものとなる。
トランプ大統領の外交政策機構を指揮する能力は強化されるが、世界における米国の地位を向上させるトランプ大統領の能力は別問題だ。米国の最も顕著な絡みはウクライナとガザだ。 2024年の選挙戦中、トランプ大統領は2021年のアフガニスタンからの米国撤退の混乱についてバイデンを批判し、「アフガニスタンでの屈辱が米国の信頼性と世界中での尊敬の崩壊を引き起こした」と主張した。ウクライナでも同様の結果があれば、トランプ大統領にとっても同様の政治的問題が生じるだろう。ガザではトランプ大統領がベンヤミン・ネタニヤフ首相に「仕事を終えて」ハマースを破壊するよう促した。しかし、その任務を達成するための戦略的ビジョンがネタニヤフ首相に欠如していることが、進行中の戦争のさらなる継続を意味し、それが世界の多くの潜在的な米国のパートナーを遠ざけている。現実には、トランプ氏がこれらの紛争から米国を撤退させることは、選挙戦で主張したよりも難しいだろう。
さらに、米国の既存の取り組み、連合、機関がまだ多くの力を持っていた2017年以来、ゲームの世界的なルールが変化した。その間に、他の大国は、米国から独立した独自の体制を構築し強化することに、より積極的になった。その範囲は、BRICS+からOPEC+、上海協力機構にまで及ぶ。より非公式には、「制裁対象国連合」の形成を見て取れる。つまり中国、北朝鮮、イランがロシアによる世界秩序の破壊を喜んで支援している。トランプ大統領は、これに対し説得力のある代替策を創出せず、こうしたグループ化のうちいくつかへ参加を欲する可能性が非常に高い。これらのグループ化を穿つという彼の述べた努力はおそらく失敗する。独裁者たちは互いに不信感を抱くかもしれないが、ドナルド・トランプに対する彼らの不信感はさらに強まる。
<参考記事> トランプ氏はロシアと中国を分断すると述べた。だがこの友情を壊すのは難しい
https://www.businessinsider.com/donald-trump-plan-divide-china-russia-axis-is-likely-fail-2024-11
しかし、トランプ2.0とトランプ1.0の最も重要な違いは、最も単純な点でもある。それは、ドナルド・トランプが今や世界舞台で有名なブランドだということだ。コロンビア大学のエリザベス・サンダース教授が最近述べたように、「2016年の選挙では、トランプ氏の外交政策はいくぶん謎めいていた。・・・しかし、2024年になると、トランプ大統領の行動ははるかに簡単に予測できるようになった。“狂人”になりたかった彼は、他国に推測させ続けるという考えを好んだが、かなり予測可能な政策を掲げる政治家になった。」習氏、プーチン氏、金委員長、トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領、さらにはフランスのエマニュエル・マクロン大統領などの指導者も、これまでにトランプ大統領の陰謀を目にした。大国も小国も、トランプに対処する最善の方法は、トランプに華やかさを浴びせ、公の場では事実確認を控え、派手だが形だけの譲歩をすることだと、もう知っている。トランプ氏の交渉スタイルは、1期目では最小限の具体的な成果しか得られなかった。2期目の利回りはそれを下回るだろう。
<参考記事>「狂人」になりたかった候補者は、かなり明確な目的を持っている
https://goodauthority.org/news/foreign-policy-donald-trump-unpredictable-madman-tariffs-nato/
もはや例外ではない
これらすべては、トランプ2.0もほぼ同じになることを意味するのだろうか? 正確には違う。トランプ氏の再選は、米国の外交政策に逆転するのが難しい2つの傾向を予感させる。1つ目は、米国の政策を損なう避けられない汚職だ。ヘンリー・キッシンジャーからヒラリー・クリントンに至るまで、歴代政権の政策担当者は書籍出版、基調講演、地政学的コンサルティングを通じて公共サービスから利益を得てきた。しかし、トランプ氏の元当局者らはこれをまったく新しいレベルに引き上げた。トランプ大統領の娘婿でホワイトハウス補佐官のジャレッド・クシュナー氏や元大使で国家情報長官代理のリチャード・グレネル氏などの顧問らは、政策立案者として築いた絆を活用して数十億ドルの海外投資(外国政府の投資ファンドからのものも含む)を確保した。そして退任直後に不動産取引を行った。外国の後援者たちが、トランプ氏の顧問団に、政権在任後に有利な取引を暗黙にあるいは明示的に約束して近づいてきたとしても、それは驚くべきことではない。これをイーロン・マスク氏のような億万長者がトランプ2.0で演じると予想される役割と組み合わせると、米国外交政策の腐敗が劇的に増加することが予測できる。
トランプ2.0が加速するもう1つの傾向は、アメリカ例外主義の終焉だ。ハリー・トルーマンからジョー・バイデンに至るまで、米国の大統領は、米国の価値観と理想が米国の外交政策において重要な役割を果たしているという考えを受け入れてきた。この主張にはさまざまな時期に異議が唱えられてきたが、民主主義の促進と人権の向上はかなり長い間国益であると認識されてきた。政治学者のジョセフ・ナイ氏は、こうしたアメリカの理想がアメリカのソフトパワーの中核要素であると主張した。
<参考サイト>ジョセフ・ナイのソフトパワー論
https://www.e-ir.info/2013/03/08/joseph-nye-on-soft-power/
米国の政策の失敗と、他人の悪い行動を指摘することで自分の悪い行動への批判をそらすロシアの「Whataboutism(訳注:フアットアバウティズム(それがどうした)論法)」が、米国の例外主義の力を侵食している。トランプ2.0はその例外主義を葬り去ることになる。実際、トランプ自身、アメリカの価値観に関しては、ある種のWhataboutismを受け入れている。最初の任期の初めに、彼は次のように述べた。「わが国には殺人鬼がたくさんいる。それでもわが国は無実だと思うのか?」
あの頃に戻ると、外国の観客は、トランプ氏が一般投票で勝てなかったことから、ほとんどのアメリカ人が彼を信じていないんだと理解することができた。ところが2024年の選挙結果はその信念を打ち砕いた。選挙期間中、トランプ氏はメキシコ攻撃と合法移民の強制送還を公約とし、野党政治家を「内部の敵」と呼び、移民が国の「血を汚している」と主張した。これらすべてにもかかわらず、あるいはおそらくそのおかげで、トランプ氏は国民多数を獲得した。世界の他の国々がトランプ氏を見たとき、彼らはもはやアメリカの例外主義に対する突飛な例外を見ず、21世紀のアメリカの象徴そのものを見ることになる。
ダニエル・W・ドレズナーは、タフツ大学フレッチャー法外交大学院の国際政治学の特別教授であり、ニュースレター『Drezner’s World』の著者