2024年4月22日

 私たちのアースデイ2024 人権 
特別公演「ガザ・パレスチナへの詩と歌」~第二のナクバに対して~

(WAJ: 世界アースデイの2024年4月22日(月曜日)、新宿区百人町「大久保ひかりのうま」で、イスラエルによるガザ・ジェノサイド攻撃に抗議する詩と歌のイベントが開催された。このイベントは昨年、『ウエッブ・アフガン』がきっかけとなって日本で大きな反響を生んだ「詩の檻はない」に刺激をうけた白拍子演者・桜井真樹子氏の呼びかけで開催された。40人定員のライブ会場に50人以上が詰めかける熱気あふれる空間にガザやヨルダン川西岸で繰り広げられるジェノサイド攻撃を今すぐやめろの声が響いた。「詩の檻はない」の詩人・大田美和、岡和田晃、高細玄一、佐川亜紀、野口壽一らが駆けつけ、「伝言板」をみた読者も参加した。大田、岡和田、高細の3人は演者として登壇し人間としての抗議の声をうたい上げた。当日の熱気の一部を高細、大田のおふたりの原稿を寄せていただき、岡和田晃の熱い自作詩朗読ビデオを掲載する。)

当日の登壇者

 

 

 ルポ4.22 

大久保ひかりのうま「パレスチナへの詩とうた」
「きっと、伝説として語り継がれる夜になる」

高細玄一

 


演壇の高細玄一氏

4月22日、大久保駅から徒歩30秒「ひかりのうま」では17時に音楽関係の音合わせリハーサルが開始されていた。

白拍子の桜井真樹子さんの呼びかけで「パレスチナへの詩とうた」に集まった様々なジャンルを超えたアーティストたち。私も18時の詩のリハより早めに「小屋入り」したが、すでに歌人の大田美和さんはスタンバイしていた。詩人の伊藤芳博さんが岐阜から来られた。初対面である。「実はロードバイクで走行中にトレーラーに接触されて。死ぬところでした。」とびっくりするようなお話をされる。ソマイアさんの来日の際、司会進行を務めていただいた文芸評論家の岡和田さんとも久々の対面。大きなリュックを抱えて詩人の宮尾節子さんもやってきた。

柔らかい声での朗読が魅力的だ。会場は30人も入るのだろうか?というところだが、予約が40人近いという。リハーサル中にもお客さんがのぞきにやってきたりする。私も音出しのリハ。宮尾さんから「もう少しマイクの近くに」とアドバイスを受ける。客入りが始まり、会場はあっという間に立ち見も含めぎっしり満席に。「唐十郎の黒テントみたいだね」という声が聞こえる。

かなりのお客さんが立ち見。そのオーディエンスに囲まれるように19時半ステージが始まった。

トップバッターは太田さん。洋服の上に和服を羽織る衣装でラッパーのように短歌を繰り出していく。全身全霊を込めたエネルギーが伝わってくる。

大田美和さん


白拍子の桜井真樹子さん

桜井真樹子さんの白拍子がそのあとすぐ始まる。観客が息をのんで見ている。私も初めて間近で見る白拍子「我はきみ(レファアト・アラリール)」は3部構成で「われ」と「きみ」を通してパレスチナと自分の「分かちがたい関係」を訴えていると感じた。

そして福島泰樹を師と仰ぐ葛原りょうさんの短歌のすさまじい パフォーマンス。

葛原りょうさん

すぐ後の吉松章さん「我はきみ その2 」邦楽と短歌が融合して、まったく異次元を作り出す。

吉松章さん

葛原りょうさんは日暮里で「bar日暮里モンパルナス」をやっている詩人でもある。 詩人でパン屋のミシマショウジさんはビデオで出演「パン屋に爆弾を落とすな パン屋を攻撃するな」パフォーマンスの後、ミシマさんの特製パンが配られた。私のもらったパンは堅めのクルミ入りパン。歯ごたえがありおいしかった。

詩人伊藤芳博さん

詩人伊藤芳博さんが寺井尚子「ピュア・モーメント」をバックに使い、「この子の名前は」 を朗読。2003年と04年にパレスチナを訪問した伊藤さんは子供たちの腕に刻まれた「名前」の意味を切々と読み、胸が苦しくなるほどのいとおしさと戦争が何を奪っているかを訴える。

塩原庭村さんの長唄「ガザの児」

三味線を使った塩原庭村さんの長唄「ガザの児」で会場は静まり返った。ピーンと張りつめた緊張感。会場の空気を変えるほどの三味の音。その静寂を破るように岡和田晃さんが「病院に爆弾を落とすな」を熱く朗読。岡和田さんの想いはガザから北海道のアイヌへ。ねじ込むような声と表情を全部使ったパフォーマンス。(末尾のビデオをご視聴ください)

岡和田晃さん「病院に爆弾を落とすな」

ふたたび桜井真樹子+吉松章さんが二人でわれときみを演じ、

「われ」がもう一人の「われ」を切り殺す。それぞれ同じ人間でありながらどうしてこのようなことが起こるのか。そう問いかけているようでもある。ここまでが第一部。ものすごく内容の濃いものだった。

第二部は黒川純さんの映像「Far from Gaza  あなたはもう大量虐殺に加担したくないと言って死んだ」焼身自殺した米兵の衝撃的なストーリー。

桜井真樹子さんが「私の家(パレスチナ・ソング」をアラビア語で。どこか懐かしいメロディに豊かな大地のにおいを感じる。

詩人の宮尾節子さんが「この日のために「春のパン」という作品を作ってきたら、本当にパンが配られて」と会場を和ませた後、「蜘蛛」で「私の言葉があなたの言葉になる」ことを問いかけ、「春のパン」で、いま会場で考えたという「言葉にできない言葉」を織り込んだパフォーマンスを披露。言葉にできない言葉とは、「うねり」に近い。「ううう」とか「あああ」とかでよく聞けば何かを発しようとしている「言葉にできない言葉」その朗読が痛切に訴えかけてくる。人の声の根源的なものに聞こえるのだ。

宮尾節子さん

 

詩人河津聖恵さんが「夜のかざぐるま」でビデオ出演。直後にアンダーワールド「ロング・アンド・ダーク」が流れ、少し不穏な空気を作り出し、私の朗読が始まる。「死は美しくない」「子どもを殺すな」を朗読。終了後、岡和田さんが「子どもを殺すな!」と声援をくれた。

Somaia Ramishさん(https://www.facebook.com/somaia.ramish)

ソマイア・ラミシュさん「パレスチナにおける戦争とジェノサイドに反対する日本のアンソロジーのために」(翻訳‥大田美和)桜井真樹子で代読され、みんなで手拍子をたたきながら「私の血はパレスチナ人(パレスチナ・ソング)」を歌い終了を迎えた。

凄い夜だった。掛け値なしに今まで体験したことにないとんでもないパフォーマンスの連続。大げさではなく、きっと伝説として語り継がれる夜になる、そう思った。これは主題がパレスチナへの想いが募っていたからということと併せて、邦楽のみなさんの訴える力の強さが今回のパフォーマンス全体を引き締めたからだと思う。後日、4月22日の演奏家のライブの情景を撮影したもの、朗読した詩人の写真、当日参加した詩人と演奏家の集合写真を入れて改めて価格をつけて出版するそうです。経費にかかる実費以外の収益が出た場合は、その売上金は私のパレスチナの合気道の生徒のリーダーに送金したいとのことです。作品ができた暁には、ぜひともお買い求めください。(高細玄一さんのこのルポは、氏のnote「https://x.gd/Z0mvI」にフルバージョンがあります)

(高細さんの「子供を殺すな」の朗読はココをクリック

 

=========

 

鎮魂と祈りの一夜
「ガザ・パレスチナへの詩と歌」に参加して

大田美和

 

特別公演「ガザ・パレスチナへの詩と歌」(於 東京 大久保・ひかりのうま)が無事終了しました。予想を超えた多くの方たちの関心を呼び、四十名以上の来場者がありました。

詩人の朗読とともに、白拍子の桜井真樹子さん、能・謡の吉松章さん、長唄の塩原庭村さんの鍛えられた演奏・舞踊がライブハウスを異界に変え、緊張感をもって全体を支えました。ガザ、パレスチナの状況を少しでも変えたいという共通の思いで集まったのは、詩人(歌人、俳人、現代詩の詩人)、詩の愛好家、路上で即時停戦を呼びかけるスタンディングを続ける人、社会運動家、文学研究者、出版関係者、大学生など様々な人たちでした。

「詩には力がある」「詩人には社会で果たすべき役割がある」というアフガニスタンの詩人ソマイア・ラミシュが日本に蒔いた種が、小さな花を咲かせました。「詩の檻はない」の参加者からは、岡和田晃さんが自作のプロレタリア詩を朗読、高細玄一さんが「子どもたちを殺すな」と切々と訴え、大田美和は作家たちの言葉と近藤芳美と秋山律子の短歌と自作のコラージュを朗読しました。ソマイア・ラミシュさんの新作も日本語に訳されて桜井真樹子さんが朗読しました。

抗議(プロテスト)のための詩や歌が、これほど必要とされる時代になったことは、身震いするほど恐ろしいことです。ソマイアさんの詩がそうであったように、この日の詩や歌は、理不尽に命を絶たれた人々への鎮魂であり、戦争のない未来への祈りでもありました。これからも、できることから少しずつをモットーに、自分の人生を大切にしながら、世界の不正に目を向け、他者に思いを広げることを続けていきたいと思います。

 

=========

 

ガザ・パレスチナへの詩と歌を終えて
抒情が殺しの手段になっている!

岡和田晃

 

虐殺に抗議し、パレスチナに連帯を!
――出演者としてまず実感したのは、会場全体でこうした意思が確かに共有されたという意味で、稀に見る確かな手応えのあるイベントだった、ということです。
自分として会心の朗読ができましたが、何より嬉しかったのは、自然と来場者の方々が応答を入れてくださったことでした。
私としても、それを受け、強い影響を受けてきた作家ガッサン・カナファーニーへの言及をアドリブで盛り込むことができたほどです。

あらゆる形でアクションを行ってきたすべての人たちに、改めてリスペクトを示すとともに、詩や歌という形をもって行動がなされたことへの意義についても、しっかり強調しておきたいと思います。

会場に入り切らないほどに超満員だった参加者の方々のなかには、冷笑的な雰囲気に抗いつづけている詩人たち、他のイベントで顔を合わせたことのある詩人たちはむろんのこと、「フラジャイル」、「潮流詩派」、「ナイトランド・クォータリー」といった、私が批評や詩を発表してきた雑誌の読者の方や、敬愛の念やまないサイード研究者、さらにはパレスチナに早くから共感していた作家である故・山野浩一さんの新刊『レヴォリューション+1』を手掛けた版元の編集者たちまでもが、サプライズで駆けつけてくれました。

思い返せば、今回の「ガザ・パレスチナへの詩と歌~第二のナクバに対して」が立ち上がったのは――大田美和さんが当日配布された参加者による詩集でも言及なさっていたのですが――2023年12月19日に行われたソマイア・ラミシュさん来日を受けてのシンポジウムへ、桜井真樹子さんが来場されたことが開催のきっかけでした。

つまり、アフガンの詩の禁止への抗議と完全に連続した企画なのです。

ソマイア・ラミシュさんの新作詩を桜井さんが読み上げ、また大田さんや高細玄一さんがご出演されていたことからも、そのことは自明なのですが……拙詩「病院に爆弾を落とすな!」からして、継続的な連帯という問題意識なきままに書くことはかなわないものでありました。

今回、発表した詩「病院に爆弾を落とすな!」や「拒否権」のようなスタイルを、私はプロレタリア詩と呼んでいます。
地べたから見上げる感覚を歌い、かつファシズムによってプロレタリア文学が壊滅させられた歴史性を参照しているからです。
「病院に爆弾を落とすな!」は、書き上げてすぐ桜井さんに送りましたが、「ウエッブ・アフガン」にも提供したので、テキストの方も、ぜひお読みいただければと思います

むろん、刻々と状況は変化しています――残念ながら、悪化の一途を辿り、各種の文芸誌も、パレスチナと連帯する者の「声」を届けるようになってきましたが、まるで充分とはいえません。

今回のイベントは、比較的早い時期から準備が進められていたこともあって、大成功と言ってよいと思います。
ここから必要なのは、連帯のうねりを作り出すだけではなく、各々の場所とスタイルで孤独に戦っている人たちに、勇気と励ましを与えることだと思います。つまり、政治に従属するだけではなく、対抗するものとしての文化を惑星的(プラネタリー)に創発していくということです。

現在、ガザでは、抒情は殺しの手段になっています。朗読でもアドリブで盛り込みましたが、“女、子どもの声で標的をおびき出し、効果的に殺害する”ドローンが導入されていると報じられているほどだからです。
同時に、人間性は完膚なきまでに破壊されています。人々は飢えに苦しみ、動物の飼料で食いつないでいる状況は、まるで改善を見せていません。
はからずしも倫理の底が抜けていることが、可視化されているわけで、そこに訴えかける言葉のあり方が求められています。
抒情が殺しの手段になっているのなら、それとは異なる論理を導き出すことが必要です。文学が表面的な「動員」の論理と異なるのは、まさにこの点を模索できるからなのです!

 

岡和田晃パフォーマンス
病院に爆弾を落とすな