(2025年10月31日)

 日米政治の類似点と相違 

~ふがいない米民主党と日本野党の復活の道~

 

ニッポンはアメリカの落とし児

ジョージ・ワシントンの艦上でトランプ大統領に寄り添い、ピョンピョン跳ねてイエーイをやってるわが国首相をテレビで観た。日本は51番目の州かと嘆く書き込みが飛び交っている。

私は、つねづね、ニッポンは税金は払うけど選挙権のないアメリカの属州だよ、と言い続けてきた。勇気あるカナダと違ってニッポンは、実は明治維新この方、アメリカの真似っこ国家なのだ(この件については別途詳説)。「先の大戦」で木っ端みじんにやられたあとは「落し児」になったけれど。

日本とアメリカの現在の政治情勢は、一見するとよく似ている。どちらも保守勢力がしぶとく団結し、反対する側は分裂し統一できないでいる。

今回はこうした日米の政治情勢と構造を比較し、日本で政権交代が起きる条件を探ってみる。アメリカ民主党の苦悩と限界を手がかりに、日本の野党勢力がいかにして共闘を成立させ、国民的信頼を回復できるのかを考えてみる。

 

日米でどこが似ている?

日本では、少数与党化し公明党に逃げられた自民党が、維新の会など保守的な野党を取り込み、かろうじて政権を維持できた。政治と金、世襲、既得権擁護などのしがらみを抱えながらも、野党が分裂しているため政権交代の現実味は乏しい。立憲民主党、国民民主党、共産党、れいわ新選組、社民党など右・中道や左派系党派が個別に勢力を維持しているが、「基本路線の違い」を理由に統一候補を立てられない。結果として、選挙では保守系の分裂選挙区でも自民党候補が相対的に勝利し、与党は「負けても倒れない」構造を保っている。

このような構図は、アメリカの政治情勢と驚くほどよく似ている。トランプ率いる共和党は、いわば「少数派による多数支配」を確立している。人口比で見れば、共和党支持層はアメリカ全体の約32%だが、選挙制度上の優位や動員力によってかろうじて政権を奪還した(注:2024大統領選でのトランプ氏の得票率は49.8%、ハリス氏は48.3%で両者とも過半数に達していない。両者の差はわずか1ポイント。地滑り的大勝利というのは全体得票数でみるとウソ。しかも全国投票率は65.3%だったからトランプ支持者は全投票者の32.5%に過ぎない)。

第2次大統領権を手にしたトランプ氏は矢継ぎ早の大統領令や関税措置などで「flood the zone(情報と政策の洪水)」戦略を展開し、民主党を後手に回らせた。これに対して民主党は、内政・外交・社会政策のあらゆる分野で意見の統一を欠き、党内で中道路線と進歩派が対立している。

象徴的なのは、若者や市民が「50501運動」(50州で50の抗議、統一した大衆運動)や「NO KINGS運動」(王はいらない、民主主義を守れ)などを通じて反トランプの熱を高めているにもかかわらず、民主党指導部がそのエネルギーを吸収できていない点である。草の根では盛り上がっても、政党としての受け皿が機能しない。

日本で言えば市民運動や反戦・非戦運動が盛り上がっても、野党連携に結びつかない構図に似ている。両国に共通しているのは、「野党(米は党内諸派)が理念の純化や互いの相違にこだわり、現実的な共闘を組めない」点であり、その間に保守政権が「数と慣性」で安定を維持してしまうということだ。

 

日米の違い

ただし、両国の政治制度は本質的に異なる。

アメリカは大統領制であり、いったん政権を取れば4年間は立場が固定される。中間選挙で議席多数派が入れ替わっても、大統領の座は揺るがない。したがって、野党民主党の戦略は「4年後の奪還」を見据えた長期戦となる。一方、日本は議院内閣制であり、衆参選挙や地方選や補選の結果によって政権が流動化する。わずかな議席変動でも与党内での勢力変更や与野党政権交代が起こりうる。つまり、野党が一定の協力体制を築ければ、瞬発的な「政権奪取」が可能な制度だ。(例:政治改革をかかげて1993年に成立した細川政権。あとで再掲)

また、保守層の構成にも違いがある。日本の保守層は、地域共同体・業界団体・地方自治体のネットワークに支えられた「しがらみ型」であり、政治的イデオロギーよりも既得権益を守る安定志向が強い。これに対してアメリカの保守層は、宗教・銃・移民など価値観問題に根ざした「信念型」である。トランプ支持は「自分たちの文化と生活を守る戦い」として感情的に結束しており、動員力が極めて高い。

さらに、トランプ共和党の権力基盤は、地方の白人労働者層、エバンジェリカル右派、エネルギー・軍需産業などから成り、メディアとSNSによって結束を強める。民主党は、都市の高学歴層、少数民族、知識人、テック企業の寄付に支えられる。いわば、共和党が「感情と動員の党」、民主党が「制度と専門知の党」である。この点で、日本の自民党はトランプ共和党よりも制度的で穏健だが、野党が分裂している限り「少数による支配」を維持できるという点で、構造はよく似ている。

 

アメリカではなぜ民主党がふがいないのか

米民主党がふがいない理由は、第1に危機のとらえ方の違いにある。
トランプの攻勢を「民主主義への脅威」と認識しながらも、党内では中道派と進歩派が対立し、現実的な戦術をまとめられない。中道派は「トランプ支持層を奪うには穏健さが必要」と主張し、進歩派は「妥協こそ敗北」として理念を優先する。結果として、党としての政策もメッセージも散漫になる。

第2に、トランプの「量と速度」戦略に対応できていない
彼は毎日のように新しい発言や大統領令を発し、メディアの議題設定を独占する。民主党は個々の発言に反論するうちに時間を失い、主導権を握れない。政策の洪水(flood the zone)戦術によって相手を混乱させるトランプ流のやり方に、旧来の議会型政党は対応不能である。

第3に、草の根運動との乖離である。
NO KINGS運動、ブラック・ライブズ・マター(MLB)、気候アクティビスト、大学生運動など、多様な市民運動が存在するが、民主党組織はこれらをうまく包摂できていない。党本部は「専門家主導」の選挙戦略に偏り、民衆的熱量を恐れて距離を取ってしまう。結果として、エネルギーは街頭にあっても票にならない。

第4に、「ディープステート」攻撃への対処の弱さがある。
トランプ大統領は官僚・メディア・司法を「国民の敵」と呼び、反エリート感情を利用して支持を固めた。民主党はそれに「事実と理性」で対抗したが、SNS時代の感情政治には響かない。専門家の正論は、ポピュリズムの情熱に勝てないのである。

では、民主党はどうすべきか。

第1に、トランプを個人攻撃するのではなく、「法の支配」「中産階級の再建」「教育と医療の公正」など、広く共有できる国民的テーマを前面に出すこと。そうして共和党議員の中にトランプ忌避の機運を醸成し、決議において味方につけること。それが可能なことは、つい先日の10月28日、上院でブラジルに対するトランプ関税を撤廃する法案が可決された事実の中に示されている。上院のこの決議が即、トランプの行為をストップさせるものではないが、共和党陣営の中に確実に亀裂を生じさせるのである。

第2に、党内の多様性を「矛盾」としてではなく「包摂の証拠」として語る物語を持つこと。

第3に、SNSやインフルエンサーを活用して、感情と理性を両立させるメッセージ戦略を構築すること。

そして何より、怒りを恐れず、希望を与える政党になること――これが、ふがいなさから脱する唯一の道であろう。

 

トランプ政権にべったり従属する高市政権

高市政権は、外交・安全保障においてトランプ政権とほぼ歩調を合わせている。防衛費増額、台湾有事への連携、対中関税など、米国の方針に追随する形だ。しかし議院内閣制の日本では、政権の基盤は脆弱である。閣僚不祥事や地方選敗北で党内の権力が移動し、連立崩壊も起こりうる。アメリカの大統領制のように任期保障がないため、わずかな失策が命取りとなる。逆に言えば、野党が結束すれば、政権交代のチャンスは常に存在している。

 

<日本での政権交代を求める野党勢力の課題>

日本の野党が政権交代を実現するには、まず「何を変えるのか」を明確にしなければならない。

最大の争点は、格差と生活不安、少子化と地方衰退、そして政治と金の癒着である。

これらは国民の8割が関心を寄せるテーマであり、理念の違う政党であっても共通項を見いだせる分野だ。

野党が掲げるべきは、「反自民」ではなく「新しい生活保障と透明な政治」でなければならない。

また、野党間の協力のあり方も再定義も必要だ。

政策合意をすべて一致させようとすれば、永遠に統一はできない。
重要なのは“不一致の棚上げ”である。
外交・安保・憲法のような争点は一時的に凍結し、社会・経済政策に集中すれば、共闘は現実味を帯びる。

1993年の細川連立政権は、まさにこの「ワンテーマ連立」で誕生した。
自民党支配の終わりを示すには、一時的な「政策休戦」が必要である。

さらに、野党は市民運動と連携し、生活実感に根ざした言葉で訴えるべきだ。

組織ではなく共感を軸にした政治へ――それが新しい野党像である。

国民の「もう一度変わってほしい」という期待を形にするには、批判ではなく希望の旗を掲げなければならない。
野党が一致団結すれば、政権交代は決して夢ではない。

民主党政権時代を「悪夢」と呼ぶ勢力がいるがそれは誰にとっての悪夢だったのか。「自民党にお灸をすえる」つもりで民主党に投票し裏切られた投票者にとっては「悪夢」ではなく只の「残念」にすぎない。

物事が1回で成就することはまれだ。何度でも挑戦すればよい。

【野口壽一】