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(2023年7月15日)

 先進国の責務 

~日本には課題が山積みだが・・・~

 

この1週間、冤罪をめぐる大きな事件がふたつあった。ひとつは大川原化工機事件。
「平和で健康的な社会作りに貢献する」という社是を掲げた中小企業の社長ら3人が、軍事転用の恐れがある機械を不正輸出したとして逮捕・起訴され、1年近い勾留を強いられた。うち1人は、勾留中に病が発覚し、無罪を訴えながら亡くなった。しかし検察は第1回公判直前の2021年7月30に起訴を取り消した。被害者の遺族や会社経営者などは国を相手取って損害賠償裁判を継続していた。その過程での7月5日、検察官2人への尋問で衝撃の証言がとびだした。

もうひとつは袴田事件。死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、7月10日、検察が有罪を求める立証を行う方針を裁判所に示した。無罪が確定すると日本中が期待していたが、検察の〝メンツ〟と〝イジ〟だけで袴田さんの自由が土壇場になってまたしても遠のいた。人権よりは職権を金科玉条とする国家権力の非人間性が露呈した。

 

法治国家とは言えない検察官のエゴとミエ

前者の大川原化工機事件では国家権力の赤裸々な、信じがたいほどの粗雑で身勝手な振る舞いが全国民のまえにさらけ出された。捜査関係者が出世欲にかられて起訴をでっちあげ、公判を維持できないと見るや起訴を取り消し。あろうことか驚きの暴露証言まで飛び出した。

各メディアは押しなべて同様の驚きを表明した。そのホンの二例。

<デイリー新潮>
公安部警察官が「まあ、捏造ですね」「捜査員の欲でそうなった」前代未聞の証人尋問で明らかになった不正捜査の数々。
(欲とは捜査員の出世欲である。)

<日経新聞>
起訴取り消し事件「捏造」 訴訟出廷の警部補が発言
捜査を担当した警視庁公安部の男性警部補が証人尋問で、原告側代理人に「事件はでっち上げと思うか」と聞かれ「捏造(ねつぞう)ですね」と述べた。

袴田事件では、検察は、袴田さんやお姉さんの人生をすべて奪い、残り少ない時間と希望まで奪い取ろうとしている。もはや両事件とも権力の犯罪と断ずるほかはない。

「法による支配」「民主主義」「人権」を標榜する日本社会。これまでも数々の冤罪や権力乱用事件があった。表向きはずいぶんと高級な国家になったようだが、その内実はお寒い。

 

社会制度や経済面でも問題が・・・

一方、「ジェンダーギャップ指数」「男女議員数格差」「報道の自由度」「各種労働指標」「発展途上国支援」「寄付指標」など社会的進歩や成熟を示す指標では日本にはまだまだ発展途上国なみの分野がある。「女性の解放度」ではアフガニスタンやイランなどとあまり変わらない低水準だ。(2022年ランキング、アフガニスタン146位、イラン143位、サウジアラビア126位、日本116位、世界経済フォーラム調べ)

じゃ、日本が世界に発展の手本をみせた経済面ではどうだろう。

2021年には世界約80億人の総人口の約11.7%にあたる9億2400万人が飢餓に直面し、23億人が中度または重度の食糧不安に陥った(ユニセフ、食糧安全保障2022年版報告)。アフガニスタンでは全人口の約半数が深刻な飢餓に直面している(2022年、FAOやWFPなどの国連やNGOなどの共同調査結果)。

日本はそうした絶対的な悲惨な状態からは脱却した、と思われているが豊かさの中の貧困という新しい問題が生じて久しい。

2019年の厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2018年時点では、相対的貧困の等価可処分所得(いわゆる手取り収入を世帯人数で割った所得)は127万円以下で、これに満たない相対的貧困世帯の割合は15.7%だったという。なお、17 歳以下の子どもの貧困率は14.0%で、そのうち48.3%がひとり親世帯という結果になっている。内閣府の調査でも、経済的な理由で必要な食料や衣服を買えなかった経験がある世帯は1割以上と、状況の深刻さがうかがえる。(MIRAI PORT, Kyowa Kirin)

日本は政治・経済から社会制度や国民の意識改革までまだまだ多くの、改善しなければならない課題が山積みだ。

 

先進国のみの改革は地球規模の格差を拡大する

国家の発展状態は、政治、経済、社会、道徳倫理などの分野で分析され評価される。世界には国家を形成するうえで様々な思想、理論、イデオロギーが存在している。国家間には利害対立があり、地球規模の対立抗争の原因になっている。しかし、地球という運命共同体に生存する人類には共通の責務があるはずだ。それを調整し共同の事業として遂行するための組織のひとつで最大のものが国連だ。ウクライナ戦争で国連の理念や機能が建前の上でさえ破綻に瀕していることが衆目のもとにさらされ、機能不全が語られるまでになってきている。しかしいまだ国連に代わる組織が生み出されていない以上、宇宙船地球号の運営は国連など既存組織を活用し乗りあわせた全員で解決に取り組むほかはない。

先進国がそれぞれの国内矛盾を先進国内だけで解決しようとすれば、その他の諸国、とくに発展途上国や赤裸々にいえば「低開発国」「後進国」に不平等な負担を押し付けることになり、両者間の格差は広がるばかりとなる。日本がなぜ、アフガニスタンなどの困難をかかえた国の支援を行わなければならないのかの理由はここにあるのではないだろうか。

繰り返し確認したい。
国内の矛盾や遅れの解消を図る場合に忘れてならないのは、世界水準の底上げである。底上げなしに宇宙船地球号の平安はありえない。

野口壽一

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