(2023年12月27日)

 詩には社会を変える力がある 

~ソマイアさんのつむじ風 初来日~

 

 

「詩には社会を変える力がある」、力強いこの言葉は、12月16日、東京都大田区の池上会館で開かれた「KOTOBA Slam Japan 2023 全国大会」で参加者からの「なぜターリバーンは詩作や朗読を禁止するのですか」との質問に答えて、ソマイア・ラミシュさんが述べたもの。詩には作るもの、読むものの内面を変革する力だけでなく、そのことを通して社会を変える力がある、詩歌がもつ偉大で当たり前の真実を聴衆が共有した一瞬だった。

 

KOTOBA Slam Japan 2023 全国大会で自作の詩「世界のどの地域も夜」を朗読するソマイア・ラミシュ

 

多くの若い詩人たちが7~8時間の長い間詩の朗読、パフォーマンスのバトルを戦い抜いた

ソマイア・ラミシュさんはヘラート出身、元ヘラート州議員。詩人・文学者・アーチスト。カーブルがターリバーンに陥落した2021年8月15日直後、ヘラートから国外へ身を移し活動を継続している。現在はオランダのアムステルダムに難民として在住している。

彼女は避難行の中で、米NATO駐留下のアフガニスタンで甘い汁を吸い続けてきた腐敗した政権とそれに対峙する歴史の亡霊ともいうべき中世への復帰をめざすイスラーム過激集団の双方を串刺しする、言葉の刃を書き留め、われわれ『ウエッブ・アフガン』に送ってきた。ターリバーンのカーブル占拠から2週間もしない出来事だった。われわれは急遽その詩を訳し、サイトに掲載した。(2021年9月1日付)

ガニーを逮捕せよ/Interpol Arrest Ghani

許さない!

弾丸は胸を貫き、夢と信念の喉元におかれた剃刀の刃で止まる…
私たち共通の痛み。嵐が来てすべてを揺るがす…
大地と空はみなを飲み込むゲームの口となり…
この数日、息をしたかった。
でも吐く息は重く溶けた鉄が胸から出てくる。
痛い、痛い、そしてまた痛い。
痛みと傷で私の魂は食い尽くされる!

カーブル、ヘラート、バダクシャーン…
国はバラバラにされ、どこで息をするかはどうでもよく
私たちはみな打ちのめされる!

これほどまでの無力と空虚を感じる日々はなかった。
絶対になかった、絶対に…
書いては消し、書いては消し、何回も。
書くべき言葉が出てこない。
ペンとハートのために何千回も泣いた…
祖国と同胞のイメージが壊れる。
私は壊れ、食われ、崩れ落ちる。

崩れ落ちるたび、何度も何度も、私のハートは許しも忘却もできない、決して忘れることなどできない、アシュラフ・ガニー・アーマドザイ、おまえを。この事態を引き起こした真犯人のお前を。お前こそが罪のない祖国の市民を何千人も虐殺し祖国の命と首都を略奪した真犯人だ。
忘れるものか、必ず、ぜったいに、消えることのない歴史のページに書き留めてやる。

日を追うごとに私の確信はますます堅固になる。私たちと私たちの故郷にもたらされた災厄は決して私たちのせいではない。
この沈黙は私たちのものではない。
私たちの胸に秘められた炎はいつか燃え上がり、この抑圧を破壊し尽くすだろう。

国民をおそれよ!
ほこりや灰や流された血の中から、正義と自由とそして祖国を呼び戻し、復活させる国民を!

ターリバーンを承認するな!
インターポールはガニーを逮捕せよ!

「ガニーを逮捕せよ」より

この詩が書かれてから1年半後の2023年1月15日、ターリバーン暫定政権は「詩作禁止令」を発した。そして、それに反するものは「刺殺」してもよいとの布告まで出した。その間の経緯は第1期『ウエッブ・アフガン』トピックス欄で報道した。

■Hasht-e-Subh(ハシュテ・スブ・デイリー)にみるアフガンの10日間
<2023年1月31日>ホースト州で詩人および市民活動家が死体で発見される

●2023年3月13日 <ハシュテ・スブ・デイリー>
ターリバーンの文部大臣、言葉や文章で社会を混乱させるものは死刑、と明言

●2023年5月2日 <ハシュテ・スブ・デイリー>
ターリバーン元報道官、海外でターリバーン反対派へのナイフ攻撃を呼びかける

ターリバーンのカーブル占拠の直後、「ガニーを逮捕せよ」を発表したソマイア・ラミシュさんが世界の詩人に向けて、詩による抗議を呼び掛けたのはまさに緊迫した、切実たる思いに発していた。Hasht-e-Subh:ハシュテ・スブ・デイリー(アフガニスタンの独立系ジャーナル)が報道したように、「ホースト州で詩人および市民活動家が死体で発見される」まさにそのような事態を受けてだった。

ターリバーンの暴挙に対して、詩で闘おう、とソマイアさんからアピールが届いた。タイトルは「世界中のすべての詩人の皆さんへ」。『ウエッブ・アフガン』ではすぐに翻訳し、2月14日、サイト上で公開した。ターリバーンの試作禁止令が出された1カ月後だった。

アピールでは作品をソマイアさんが立ち上げたBaamdaad(バームダード:夜明け)に3月1日までに送れ、とあった。とても間に合わない。ソマイアさんに頼んで、日本からは締めきりを10日伸ばして3月10日としてもらった。
バームダードは、2023年4月15日「世界芸術の日」までに投稿を集め、オンラインで発表する、としていた。

『ウエッブ・アフガン』にはそれまで「文芸部」はなかった。それでサイトにバームダードのアピール文を掲載する一方で、ネット上で連絡先を公開している詩の団体に呼びかけ文を送った。その時は、ダメでもアフガン人の切実な思いに応えるべく最善を尽くそう、というくらいの気持ちだった。

いくつかの団体から問い合わせがあった。もっともよい反応でも「締め切りが厳しい」「組織としては対応できないが会員に伝達する」「国際連帯の課題として検討する」的なものだった。しかし、1カ所から、「これは本当ですか? そんなことがあるのですか?」との反応があった。その疑問を発したのが北海道詩人協会事務局の柴田望さんだった。

彼は自分で、バームダード・アピールの裏取りを行った。そしてその真実を自分で確信し、わたしとの2人三脚が始まった。彼はそのいきさつを詩にまとめた。8月15日に世界で最初に敢行された『詩の檻はない~アフガニスタンにおける検閲と幻術の弾圧に対する詩的抗議~』が世に出る、感動的な物語詩である。タイトルは「O.K.」。

「 O.K. 」

本当なのか?
お金をとる詐欺じゃないのか?
本当にあるのか?
詩を書いてはならないと
禁じられた国なんて
ネットにも書いてない
世界の詩人たちへメッセージだなんて
その人は存在するのか?
疑う人が存在するのと
同じように、あなたはいた
英語で交し合った、数々のメール
あなたは有名な勇気ある詩人で
お子さんは病気がちで
・・・

(この感動的な物語詩の全文は本サイトにも掲載しました。つづきはここをクリックしてごらんください
柴田さんは『詩の檻はない』の出版後も寝食を忘れ(これ、本当です)精力的に普及に尽力した。その過程を本サイトでも報告していただいた。ここをクリックしてごらんください。

こうして生まれた『詩の檻はない』に日本からは36人の作品が収録された。間に合わなかったが詩作に応じた多くの詩人がいた。作品の収録が間に合った36人の詩人のひとりが冒頭の「KOTOBA Slam Japan」(略称KSJ)を主宰する三木悠莉さんだった。(KSJについてはここをクリック)「KOTOBA Slam Japan」は、12月16日に開催する「2023年 全国大会」にソマイア・ラミシュさんをゲストスピーカーとして招待することを決めた。『ウエッブ・アフガン』はソマイアさん招待に協働し大会後のイベントを準備することとなった。
(KSJの全国大会の模様は本サイト編集主幹金子明の「つぶやき」をご覧ください。ここをクリック

『ウエッブ・アフガン』は大会後の2日間、ソマイアさんと『詩の檻はない』の日本詩人やアフガン人活動家との交流を支援することにした。

ソマイアさんは5泊6日の短期間、東京や千葉や横浜で詩の朗読や講演やシンポジュウムを行っただけでなく、東京都庁界隈、浅草、墨田川クルーズ、靖国神社、皇居、豊洲のチームラボプラネッツを見学し、NHK渋谷本局でのペルシャ語放送のインタビューまでこなした。まさにつむじ風のような初来日だった。

とくに最終日に横浜市ことぶき協働スペースで開催されたシンポジュウム『アフガニスタンと日本の詩人による知性対話 言論の自由と女性の地位、社会の解放について』(ソマイア・ラミシュ、大田美和、岡和田晃、佐川亜紀)は、詩や芸術を通した国際連帯とはなにか、そしてそれは現代においていかに実践されるべきか、を追究する、近年ではまれな極めて水準の高い試みであった。このシンポジュウムはこれから日本の有数の詩の雑誌や刊行物で取り上げられ論じられるであろう。もちろん『ウエッブ・アフガン』でも詳報していく予定。

一方、11月にはフランスで『詩の檻はない』のフランス語版が刊行されており、その他の国でもその国の言語で発行されるとの情報も入ってきている。

 

フランス語版『詩の檻はない』

第1回で成功を収めた国際連帯試作プロジェクトに引き続くプロジェクトも企画されている。

ターリバーン的存在が続く限り、『詩の檻はない』プロジェクトが終わることはない。闘いはロングマーチなのだ。

【野口壽一】

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