(2024年2月15日)
まったくどうしようもない政府と国家たち
~人民はなにをすべきなのか~
日本は元旦の能登大地震、志賀原発の破損、JALと海保機の衝突事故、自民党の裏金問題、トヨタ・ダイハツのグループぐるみの不祥事と、自然も政治も経済もダメダメなのに株だけは上がっている。アメリカをめぐっては「もしトラ」「ほぼトラ」「確トラ」と3ダイ噺がはびこっている。まるでトランプ勝利を世界は織り込み始めたようなありさまだ。
イスラエルのジェノサイドは止まらない、止められない
米調査会社のユーラシア・グループが発表した今年の「世界の10大リスク」。第1位はアメリカの政治分断、第2位はイスラエルとハマースの衝突による「瀬戸際に立つ中東」、第3位がロシアによる「ウクライナ分割」だった。(https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Media/files/Top%20Risks%202024%20JPN.pdf)
アメリカの支援が議会共和党の妨害でウクライナは戦場で立ち往生。イランや北朝鮮から武器の供給を受けたロシアの空中攻撃の増加に直面している。
手元に届いた中東調査会の中東トピックス1月号では「イスラエル:ネタニヤフ首相の政治生命を危ぶむ声が高まる」を第1位に、第7位の「アフガニスタン:習近平国家主席が信任状を受理」まで中東各地の危機が世界に及ぼす危険について論じている。会員限定ニュースなので詳しくは引用できないが、イスラエル問題に関しては勘所をついた論評を掲げている。(https://www.meij.or.jp/trend_analysis/topics/T23-10.html)
ネタニヤフ政権はハマースの壊滅に向けまい進している。イスラエル軍は進攻後4カ月。ガザ地区南部ラファでの軍事活動を強化。ガザ住民を南部に追い込み残虐な空中地上攻撃をつづけている。
イスラエル国内では、ネタニヤフ首相は個人的な利害をからませ戦争を継続している疑念が深まり、再選挙や退陣を求める声が広がっている。
政府内の不協和音が高まりを見せ、最高裁もネタニヤフ政権を有利にする司法制度改革関連法案を無効とする判決を下した。また高等裁判所はベン・グビル国家安全保障相が武力行使を含めたデモ取り締まりに関する指示を出す権限を控えるよう求める決定も下した。
世論調査では、ガザ戦争後のネタニヤフ首相の続投を望む人の割合は 15%とされ、1月21日の調査では、今総選挙を実施した場合、ガンツ前国防相率いる国民連合が最多の 37 議席を獲得(+25 議席)、ネタニヤフ首相のリクードが 16(-16)という結果が出た。
このような事態に対して、中東調査会は次のように評価する。「司法府との関係、議会内での立場、国民からの評価、米国をはじめとした国際社会や周辺諸国との関係、いずれを考慮してもネタニヤフ首相の政治的生命は危機に向かっている。」「一方、人質奪還を前提としたハマースとの戦争継続自体は国内で一定の支持を得ている。22 日の国会でネタニヤフ首相の不信任決議案が出された。政権側議員のボイコットがあったとはいえ、わずか 18 票しか集まらなかった。」「人質奪還とハマース壊滅を掲げて戦争が続いている中で、首相の政治家としての地位は保たれている。」
つまり、戦争をやめれば戦争責任や汚職問題などでの追及が待っており、戦争継続が政権維持の保証となっているというのだ。ネタニヤフ個人の利害で何万人もが殺され、ガザ・西岸などパレスチナ人何百万人もの生存が脅かされる悲惨な事態は許されるものではない。しかもイスラエルの暴挙はウクライナ危機とあいまって中東発の世界不安を現実のものにしようとしているのだ。
世界はどうなってしまうのか
核保有国であり国連の常任理事国であるロシアのウクライナ侵略で、世界戦争を止める国連の機能は風前の灯となっている。第2次世界大戦の戦勝国によって世界戦争を阻止する機関として国連は設立された。しかし「世界の保安官」を自認するアメリカは国連を単なる道具のひとつとしてしか扱わず、国連が利用できなければ出資金を停止したり、有志連合などを結成して武力行使をしてきた。好き勝手に戦争してきたアメリカだったから、ソ連やロシアの武力行使にも口実を与えてきた。国連の戦争阻止機能が制度設計通りに発揮されなかったのは、アメリカ(とイギリスなど)の利己的な振る舞いがつづいたからだ。
ウクライナやイスラエル問題でアメリカが思うような行動がとれなくなったのは、国家と国家が宣戦布告して国民総動員体制で闘う正規軍同士の戦争でなく非対称戦争とよばれる正規軍対非正規ゲリラという戦争形態の変化にともなうアメリカの軍事力の相対的な低下と無力化、戦争介入の非合理性(ウクライナでは侵略をしたロシアを批判するのに、イスラエルでは占領と植民地化を推し進めるイスラエルを一貫して支持する論理矛盾)が誰が見ても明白だからだ。
世界平和を担保する(できる)国も組織もない世界
現代をひとことであらわせば、このように言わざるをえない。日本国憲法が前提とした世界はもうないのだ。台頭しつつあるグローバルサウスと呼ばれる国々は、第2次世界大戦までの大国支配の被害者であり、本質を自分の肌身で知っている。だから、なまなかなことでは国連常任理事国やいわゆる西側大国の論理に従っては動かない。よくて面従腹背だ。いまや自分たちの利害に基づいて動けるし、動くべきだと確信している。世界は多極化、つまり無極化している。
論理が力を失ったとき、力が論理となり正義となる。
私は憲法の専門家ではないし、ウエッブ・アフガンの読者には憲法の専門家や外交の専門家が何人もおられる。だからこれから言うことは分かり切った青臭い書生論議だと笑われるかもしれないのだが、あえて言わせてほしい。それは、アメリカ独立宣言、アメリカ合衆国憲法、および修正第2条の存在である。
独立宣言は言う。
「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。こうした権利を確保するために、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。そして、いかなる形態の政府であれ、政府がこれらの目的に反するようになったときには、人民には政府を改造または廃止し、新たな政府を樹立し、人民の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる原理をその基盤とし、人民の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる形の権力を組織する権利を有するということ、である。」
「権力の乱用と権利の侵害が、常に同じ目標に向けて長期にわたって続き、人民を絶対的な専制の下に置こうとする意図が明らかであるときには、そのような政府を捨て去り、自らの将来の安全のために新たな保障の組織を作ることが、人民の権利であり義務である。これらの植民地が耐え忍んできた苦難は、まさにそうした事態であり、そして今、まさにそのような必要性によって、彼らはこれまでの政府を変えることを迫られているのである。現在の英国王の治世の歴史は、度重なる不正と権利侵害の歴史であり、そのすべてがこれらの諸邦に対する絶対専制の確立を直接の目的としている。このことを例証するために、以下の事実をあえて公正に判断する世界の人々に向けて提示することとする。」
その精神を保証するものとしてアメリカ憲法はその修正第2条で次のように規定している。
「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、 侵してはならない。」
アメリカの独立宣言と憲法と修正第2条は、植民地主義に苦しめられてきた世界の大多数の人民にとって正義の宣言ないし法律ないし義務条項なのである。
ベトナムは宣言し、実行した
1945年に独立を勝ち得て初代国家主席となったホー・チ・ミンはベトナムの独立宣言を起草するにあたり、アメリカの独立宣言の冒頭表現を自国の憲法の冒頭に置いた。「すべての人間は平等に作られている。人類はその創造者によって奪う事の出来ない権利が授けられている。それらは生命、自由、そして幸福の追求である。」(Wikipedia)と。そしてフランス革命における「権利宣言」へとつなげ、日本からの独立の宣言をおこなったのである。
つまり、世界の平和や人民の生活を保証せず、権力の乱用と権利の侵害が、常に同じ目標に向けて長期にわたって続き、人民を絶対的な専制の下に置こうとする意図が明らかであるときには、そのような政府を捨て去り、自らの将来の安全のために新たな保障の組織を作ることが、人民の権利であり義務である、ということである。
これこそが、現代世界の人民の課題であり、義務でなければならない。
では、日本はどうする。
筆者の手元に先ほど届いた論説にこう書かれている。(BIS論壇No.435『米国の輸入先変動』中川十郎24・2・10)
日本の衰退が留まらないことを指摘して、「このような事態にも関わらず、日本の政界は自民党の裏金醜聞に明け暮れている。財界も危機意識希薄で、4割の非正規雇用で労賃を抑え込み、実質賃金は2008年の年間355.7万円から22年326.3万円と毎年目減りを続けている。これに対し、企業は22年に511.4兆円もの内部留保金を積み増している。
官僚も小粒となり、かつての日本の国家戦略樹立など長期的総合政策もないまま、目先の短期的な対応に明け暮れている。教育界も文部科学省の長期総合戦略もなく、アジアでも中国、韓国は言うに及ばず、シンガポール、香港などの大学の後塵を拝している現状だ。このような状況では日本の衰退には歯止めがかからないだろう。
かつて日の出の勢いだった日本の最近の衰退ぶりを見て、東南アジアでは日本は『オールド・ゴールドメダリスト(年老いた金メダリスト)』と揶揄されているそうだ。」
「日本もこの機会に、21世紀総合戦略樹立のために、人口問題、少子、高齢化問題、地方過疎地対策、格差拡大対策、食料自給対策、エネルギー対策、原発対策、AI、技術振興対策、災害予防対策など21世紀を見据えた日本未来国家総合戦略を今こそ官民の叡智を集めて確立することこそ急務であろう。自民党の裏金問題などに明け暮れている時ではない。
衰退を続ける日本に今こそ歯止めをかける国家戦略を確立すべき秋だ。」
アメリカの独立宣言や憲法修正第2条の規定を実行するほどの気概を日本人民はいま持っているようには思えない。しかし、あれこれと小手先の弥縫策を考えるのでなく、ここで提案されているような日本の行く末を構想するくらいはいくらなんでもできるのではないだろうか。
<最後に蛇足>
不思議なことだが、横紙破りで好き勝手をやっているようにみえるトランプ前大統領でさえ、まだ既存の論理(俗論)に従っているようにみえる。力が正義であることを憲法が保証している国の政治家なのに。
どこまでも暴力革命容認的なアメリカの独立宣言だが、前述の「人民の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる形の権力を組織する権利を有するということ、である。」につづけてすぐ「もちろん、長年にわたり樹立されている政府を軽々しい一時的な理由で改造すべきではないことは思慮分別が示す通りである。」とくぎを刺すことを忘れていない。そして、なんでもやりそうなあのトランプ前大統領は、独立宣言の抵抗権や革命権にはまったく触れない。それどころか、自分は国会襲撃など扇動していない、暴力的に政権を転覆させようなどとは思っていない。あくまでも現体制を擁護して権力奪取をはかるのだ、と牙を抜いた発言をしている。
彼のアメリカファースト、メイク・アメリカ・グレート・アゲインは、独立宣言が高らかにうたい上げた「人民の権利と義務」を、忘れ去ったのだろうか、それとも意識的に触れようとしていないだけなのだろうか。
【野口壽一】