(2024年2月25日)
暗闇を照らす明かり
~「受益」と「供与」を超える互恵の精神~
明るいニュースを拾った
毎日毎日、戦争や災害や政治腐敗のニュースばかり。いい加減うんざり。気持ちまでが暗くなる。
ある土曜の早朝アフガン女性のための日本語教室の手伝いに出かけた千葉明徳学園でこんな新聞記事を発見。
<朝日新聞2月8日 千葉版>
アフガン人が義援金
能登地震 500人から301万円
こんなニュースを大々的に取り上げてほしいんだよね。ネットからダウンロードして拡散しようとデータをさがしたが見つからない。しかたないので全文引用する。
<以下引用>
県内の在日アフガニスタン人が立ち上げた「アフガニスタン文化協会千葉」は1月、日本赤十字社を通じて能登半島地震の被災地に301万円の義援金を贈った。アフガンは長年にわたって日本から支援を受けてきたといい、「今度は自分たちの番だ」と考え、行動に移した。
千葉県は全国で最も在日アフガン人が多く、中古車の解体や輸出などの自営業を営む人が多い。同協会のモハマド・バキル代表理事(55)らはニュースで被災地の崩れた家や避難所の様子を見て、「少しでも助けたい」と思い、アフガン人が経営する会社を1軒1軒回って約500人から義援金を集めた。2001年の東日本大震災では、福島県から茨城県つくば市に避難した人たちにストーブなどの物資を届けた。来日して約30年のバキルさんらは「日本社会の一員という意識があり、被災地の人たちを友達だと思っている。義援金を生活用品などに使ってもらえたらいいなと思う」と話した。(伊藤繭莉)
<写真キャプション> 能登半島地震の被災地に義援金を贈ったアフガニスタン文化協会千葉のメンバーたち=四街道市 <引用おわり>
元気のでる話だ。記者さん、ありがとう。
同じような美談は少なくない。台湾から大災害のたびに巨額の義援金が寄せられる。たいていの日本人は知っている。
23年前とずいぶん昔の話だが、韓国人留学生が(日本人カメラマンと一緒に)山手線新大久保駅で線路に落ちた日本人を助けようとして命を落とした事件があった。痛ましい事件だった。だが、追悼・顕彰プレートがつくられ映画や小説になり、鉄道のホームドア設置を急がせるきっかけにもなった。コロナが明けて追悼行事も復活したという。たいていの日本人は覚えているだろう。
一方、在日外国人が増えつつある昨今、前々回の<視点:089>「〝ワラビスタン〟から見えるもの ~日本の現状と将来を測るリトマス試験紙~」で取り上げたようなトラブルが増えているのも現実だ。
増え続ける在日外国人
日本にとって江戸時代の鎖国のあとの開国は朝鮮半島や中国への武力進出だった。それによる大量の朝鮮人・中国人が日本に流入。朝鮮人は日韓併合で日本人にされた。
戦後の在日外国人問題は、朝鮮・韓国人問題と在日中国人問題がそのほとんどを占めた。これらの人びとは戦前からも日本の社会体制、国民感情と闘い日本列島に定住し足場を築いてきた。大阪の鶴橋や猪飼のコリアタウンや横浜の中華街などは地域を特徴づけ経済的にも貢献する居住区となっている。最近の新大久保や池袋などの賑わいもその延長線上のものだろう。
一方、戦後のもうひとつの在日外国人問題は、日本の経済発展と社会構成の変化に連動して生起してきた。
記憶に残るものだけをあげても
・農村の嫁不足を起因とする韓国やフィリピンからの花嫁移住。村に溶け込んだ女性たちが地域特産としてキムチ製造を始めキムチ村が有名になったり、日比夫婦という言葉が生まれるほど、国際結婚(日本人男性とアジア女性が多い)が増加。
・高度成長後の国内労働力の不足を補う各種製造業の労働者確保。自動車産業ではブラジリアンタウンが有名となった。北関東から静岡、愛知など。一時は30万人を超え、現在でも20万人以上存在。(一例:「北関東の異界 エスニック国道354号線」ロヒンギャ難民が集まる館林市)
・農林漁業労働者は全国にひろく存在し、現在は3万人を超える。東日本大震災現場に中国人や東南アジア労働者の多い実態が浮き彫りに。
・3K職場や飲食・小売り・流通などに中東・アジアなどからの従業者
・産業構成の変化によりIT技術者などが江戸川区などに集積(金融タウンに近い)。西葛西インド村の出現
・これらの結果、2023年6月現在、在日外国人数は322万3858人(全人口比2.5%)(出入国在留管理庁調べ)。東京都だけを見ると2024年1月1日現在で64万7416人、人口比5.0%。中国、韓国、ベトナム、フィリピン、ネパールの順。また、東京都の外国人の86%は15歳~64歳の「生産年齢人口」で20歳代から30歳代が多い。(シニアガイドHP)
移民や難民の受け入れに消極的な日本政府ではあるが、社会変化と産業界の要請にシブシブ応じ、入管法など法的規制を少しずつ緩めてきた結果、在日外国人は着実に増えてきている。
安直な労働力不足対策という考えはやめた方が良い
直近の例でいえば、先に取り上げた埼玉県の川口市や蕨市に集積したクルド人が、日本人がやりたがらない建築や土木現場の解体業務業界で一定の存在感を持って存在していること、また、千葉県の四街道市や佐倉市のアフガン人らが中古車解体業を支えているように、社会維持に不可欠な存在となりつつある。
多くの分析や提言が明らかにしているように、日本の賃金水準や業界力は韓国や台湾、シンガポールなどに迫られ一部は追い抜かれており、円安の継続を考慮すれば、賃金面からの日本の魅力は薄れている。しかし、外国人が日本に働きに来る理由は、賃金だけではない。日本の技術力やビジネスへの魅力、社会的先進性や清潔・住環境、ソフト力(アニメやゲームなどのエンターテインメント、伝統芸術、料理)など、総合的な日本の比較優位性と特異性ではないだろうか。
ちなみに、2022年に出入国在留管理庁が日本で暮らす中長期の在留外国人を対象に行ったアンケート調査では、日本に来た主な理由として「スキル獲得・将来のキャリア向上のため」(19.3%)、「日本が好きだから」(18.0%)、「勉強のため」(17.1%)、「お金を稼ぐ・仕送り(送金)のため」(15.6%)などを挙げている(ニッセイレポート:外国人労働者の誘致政策-「先進性」「ソフトパワー」「所得」「人権」)。
人が集まるということは、外から見て日本に価値がある、ということであり、それは日本先住民にとっても価値であるはずだ。
一時的な観光客でなく日本社会を構成する一員として外国人を受け入れるとすれば、かれらの人権に配慮しなければならない。なぜなら、低賃金で劣悪な労働力の存在は全体の労働者の労働条件の引き下げ、社会環境の悪化を生むからである。
さきにあげたニッセイ基礎研究所のレポートは、外国人労働者の日本社会への包摂が、今後、今以上に重要になるとして、次のように結論づけている。
「(外国人労働者)統合政策の推進役となる自治体の中には、人手不足や財源不足、事業運営上のノウハウの不足などから、取組みに支障が出ている例も少なくない。少子化対策と同じく、財源確保は課題であり、限られた資源を有効活用し、政策効果を高める工夫が必要になる。如何に統合政策の実効性を高めて行けるか。外国人労働者の誘致を考えるうえで重要な要素となるだろう。」
筆者もこの結論に賛成ではあるが、先の<視点:089>で述べたように、国の政策、財源、自治体の努力だけでなく、地域住民の側の取り組みと、当の外国人労働者(とその家族)の取り組みが不可欠なのだ。
四街道・佐倉両市と千葉明徳学園での実践
その一例が四街道市や佐倉市の取り組みである。四街道市は、在住外国人でもっとも多いアフガン女性の生活支援や日本語学習支援を行ってきた。それらは四街道市の「四街道市国際交流協会」の活動や佐倉市の「佐倉国際交流基金」の活動などである。イーグル・アフガン復興協会はこれら先行する活動にならい、千葉市での活動を始めたのだ。(<視点:082>「アフガン女性のための日本語学校 ~千葉明徳学園で本格的に授業開始~」参照)
千葉明徳学園での昨年11月からの4カ月間の日本語学校試行プログラム(正式開校はきたる4月から)のなかで明らかになったのは、このプログラムを推進するエンジンは、まずはイーグル・アフガン復興協会と支援をうけるアフガン女性側のリーダーたち、そして学校法人千葉明徳学園と活動全体をささえるボランティア(市民)であるという事実だ。
そのことを端的にまとめてくれたのが、2月11日の「NHKワールドJAPANペルシャ語放送」だった。前回ニュースではペルシャ語ナレーションと簡単な日本語字幕だけで、内容を十分に伝えることができなかった。それで今回、視聴者の協力をえて、分かりやすい日本語概要を作成して掲載した。数分で読み終えることのできる、感動的なストーリーがここにはあります。ぜひ、ただちにお読みくださることをお勧めします。
われわれが学んだこと
「<視点>〝ワラビスタン〟から見えるもの」で、強調したのは、国や自治体による行政措置を血の通ったものとするためには、在日外国人側のニーズを踏まえたリーダーシップ+日本側の住民・市民ボランティアの提携+行政のバックアップいうことである。さらには、
・恩恵を与えるものと受けるものという関係でない互恵の精神
・多文化共生を日本化強制としない心遣い
が必要になる。この対等な関係から関係者は多くの感動を得ることができるし、学びがある。このことについては今後さらに深め、レポートしていきたい。
四街道市の男性アフガン人事業主たちが示した「日本社会の一員という意識があり、被災地の人たちを友達だと思っている」とする在日外国人はあちこちにおり、増えており、そのような外国人が増えるように日本の側が努力をすれば世界に開けた素晴らしい未来が築けることだろう。国や自治体などの行政側はそのような外国人と民間の努力を支え促進する措置を取るべきだ。
【野口壽一】