(2026年8月24日)
フェモナショナリズムとは
~女は女の味方なのか~
毎日新聞の23日朝のニュースレターで≪台頭する極右の女性指導者 パリ在住の研究者語る「偽の解放論」≫と題する記事が送られてきた。

毎日新聞は、欧州で極右・保守派の女性指導者が台頭し、女性からも支持を集めている現象を取り上げた。哲学・社会思想研究者の森野咲氏は、この一見した矛盾を解く鍵として「フェモナショナリズム」を挙げる。これは社会学者サラ・R・ファリスが提唱した概念で、女性の権利擁護と排外的ナショナリズムが結合した現象を指す。極右勢力は「女性の安全」を掲げ、移民やムスリム男性を女性への脅威として描く一方、女性政治家を運動の顔にして過激さを覆い隠す。また、女性の自律的な「解放」を求めるのではなく、国家や男性による「保護」に置き換え、伝統的性別役割を維持しながら女性票を取り込む。
同様の構造は日本にもみられる。右派女性政治家の台頭と外国人排斥言説は無関係ではない。またターリバーンも、女性の教育・就労・社会参加の禁止を「イスラームに基づく女性保護」と正当化し、それを支持する女性も存在する。米国ではさらに、女性自身が女性参政権を否定し、「憲法修正第19条を廃止せよ」と唱える潮流まで再登場した。「女性は女性の味方」とは限らず、ときには女性が女性の権利を奪う側に回るのである。
これは、ラストベルトの白人労働者がトランプを支持した現象とも重なる。「女性ならフェミニズムを支持する」「労働者なら階級的に団結する」という機械的理解は成り立たない。人間は女性や労働者であるだけでなく、人種、宗教、国籍、階層、家族上の地位など、複数の属性を同時に持つ。女性としての共通利益より、白人、キリスト教徒、自国民、妻としての帰属意識を優先することもある。労働者も経済的利益より、移民排斥、宗教、銃所持、民族的優越感を選びうる。
さらに、被支配者も秩序の内部で相対的な特権を得ることがある。白人労働者は資本家には従属しながら、移民や黒人に対する優位を守ろうとする。女性も家父長制に服しつつ、「夫に守られる良き妻」という理想像に自己を重ね、宗教共同体から承認や生活保障を得る場合がある。学校、教会、家庭、メディア、SNSが支配的価値観を「常識」として浸透させる、グラムシのいうヘゲモニーも作用する。
したがって、破綻するのは「存在が意識を規定する」という命題ではなく、それを自動的な因果関係とみなす理解である。マルクスも、労働者が存在するだけで階級意識を持つとは考えなかった。存在は意識の条件を与えるが、それが思想、文化、教育、組織、経験、闘争を通して解釈されて初めて政治的意識となる。女性の連帯も労働者の団結も自然には生まれない。共通利益を言語化し、経験を共有し、支配的な常識に対抗する実践によって獲得されるのである。
【野口壽一】
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